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更新日:平成23年3月15日
麻機遊水地のあたりは、約6,000年前の縄文海進のころには、清水港からつづく古麻機湾と名づけられた入り江の最奥でした。その後の海面の低下と安倍川や周辺河川からの流出土砂によって、古麻機湾のほとんどは陸地となりましたが、麻機遊水地のあたりは海抜6メートルほどの沼として残されました。 低地の沼には、渡来する水鳥などにより、水生・湿生植物の種子が運ばれ、また水田の造成にともない、稲にまじり人に運ばれたりして多くの植物が生えるようになりました。 遊水地の造成が始まってから、これまでに見つかっている植物は600種をこえています。この植物の種類の多さは、遊水地の歴史の古さを物語っています。 しかし、この600種あまりの植物が遊水地でいつも見られるわけではありません。暖かい気候のところにできた湿地では、生えてくる植物をそのままほうっておくと、次第に背の高いアシやガマの群落となり、背の低い植物はそれらの日陰となって消えてしまうからです。 |
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でも、アシやガマに負けた背の低い多くの水生・湿生植物がまったくなくなってしまうわけではありません。それらの植物の種子は沼底の泥の中に、休眠して長い間生き残っているからです。休眠していた種子は、アシやガマが刈り取られて明るくなったり、沼底の泥が掘り起こされたりすると、長い眠りから覚めて発芽し成長を始めるのです。 そこで、遊水地で常に多くの種類の植物を生育させようとすると、あるところでは毎年土を掘り起こし、また、あるところでは掘り起こした土を数年ほうっておくなど、いろいろな方法で湿地に手を加えねばなりません。 |
第3工区の池沼 |
近ごろ、あちこちで沼地や湿地は不要なもの、邪魔なものとみなされ、どんどん埋め立てられて、水生・湿生植物の生育場所が極端に少なくなっています。また田んぼでも、多くの除草剤が使われたため、雑草として生き残っていた湿生植物の多くが消えてしまいました。そのため、湿地に生える植物で、絶滅危惧種と指定されるものが非常に多くなっています。 |
アシの群落 |
麻機遊水地でも、最近まで水田として使われ除草剤がまかれていましたが、遊水地造成工事で深い眠りから覚めた植物の中に、国や県が絶滅のおそれがあると指定した植物が十数種も生き残っていたことがわかりました。遊水地では泥の層が厚く、深いところに休眠していた種子があったことが幸いしたのでしょう。 |
流入する油 |
水生・湿生植物の生育環境を破壊するものとしては、湿地の埋め立て以外にも水質の悪化も問題です。麻機遊水地周辺も宅地や商業施設が増加し、そこからの排水が遊水地内に流れ込んでいます。排水による水質汚染で直接死滅する植物もありますが、流入排水による富栄養化により一部の植物が極端に繁茂し、他の植物を追いやることが心配されます。同じことは一部の帰化植物の侵入についてもいえることです。特に流入排水による富栄養化と、それによる一部の帰化植物の異常繁殖への対処が、今後の麻機遊水地の植生管理上もっとも重要な課題でしょう。 麻機遊水地が、いつまでも環境汚染から守られ、撹乱などの適当な人手による管理によって豊かな植物相が維持され、常に多くの植物が観察できる場であることを願っています。(湯浅保雄) |
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