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ホーム >島田土木事務所 >所長のことば >ロシアの隕石と“財政出動”による公共事業

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ロシアの隕石と、“財政出動”による公共事業

 
 島田土木事務所長 渡邉 良和  
  • ※去る2月7日に藤枝市で開催した“県政さわやかタウンミーティング”で県の公共事業の現状を説明する筆者

 

春が待ち遠しい寒さ続きの中、皆さま、お元気でお過ごしでしょうか。

2月15日の、ロシア中部ウラル地方チェリャビンスク州への隕石落下には本当に驚きました。

 

ロシア隕石落下の概要

米国NASAによれば、今回の隕石落下は、秒速18kmで大気圏に突入した隕石が空中で爆発、落下したもので、大気圏突入前の隕石の質量(重さ)は約1万トン以上、直径は約17mで、上空で爆発した際に、広島型原爆の30倍以上のエネルギーが衝撃波として放出されたそうです。衝撃波とは、物体(ジェット機など)が、音(波)を伝える流体(空気)の中を移動中、音速を超えた瞬間に発生するものですが、今回の隕石のように、音速以上のスピードで地球に近づき、大気という流体の中に突入した場合も発生するものです。物体がゆっくり移動する場合は、音のエネルギーが物体の前後左右のすべての方向に伝わって行くのですが、物体のスピードが音速を超えると、前に伝わるはずの音エネルギーも後ろに置いて行かれ、音の波が重なり合って大きなエネルギーとなり、衝撃波として物体の後方に、円錐状のような形で広がっていくのです。隕石が、地上に届く前のはるか上空で燃え尽きれば衝撃波は地上に影響を与えないのですが、今回は、隕石が地面に対して水平に近い軌道で進入し、空気の薄い層を移動し続けたために、なかなか燃え尽きず、衝撃波の影響が地上に強く出たのではないかということです。

衝撃波の影響は、州都チェリャビンスク市を中心に半径約100kmの範囲に及び、1,200人以上が負傷したそうです。衝撃波の発生による閃光が強烈で、それを確かめるために窓際に寄った人たちが、閃光から2~3分遅れで届いた衝撃波によって割られたガラスの破片などで負傷した、というケースが多かったようです。謹んで、お見舞いを申し上げたいと思います。

現地では、隕石のかけらが、氷結した湖に直径約8mの穴を開けて地上に落下したとの情報であったのに、地元州政府が、ダイバーによる捜索を行った結果、何も見つからず、捜索を打ち切ったということで、新たなミステリーも生まれています。

 

“財政出動”による公共事業

話題を変えます。政府は、いわゆるアベノミクス「3本の矢」のうちで最も重要な“成長戦略”には、ようやく検討に着手したところですが、そのほかの2つ、“金融緩和”と“財政出動”に関しては、既に積極的な取り組みを見せています。

そして、このうちの「積極的な“財政出動”」は、私どもが係わる社会資本の整備、すなわち公共事業が主役です。主に、東日本大震災や中央自動車道笹子トンネル天井板落下事故を受けての公共施設の緊急的な防災・減災対策、老朽化対策、そして、それらの事業執行による国内経済の活性化が目的です。

この緊急事業執行に対応するための、県の補正予算は去る2月12日の県議会臨時会で既に可決されましたが、国の補正予算は現在、国会審議中で、与・野党の駆け引きもあり成立時期が明確になっていません。1日も早い成立を期待したいと思います。

ただ、私どもはもちろん、1日も早い工事発注に向けて、既に精力的に準備を進めています。個々の事業箇所の交付予算額や正式な予算交付日が明確には見えない中でも、国に要求した予算額を元に、発注に必要な工事図面の作成や工事費積算などの作業を進めているのです。経済対策の緊急性の観点と、地域住民や施設利用者の皆さまの安全・安心を、1日でも早く確保しようという気持ちからの、緊急的な作業です。

 

緊急公共事業の効果

一方、今回の緊急経済対策は昔ながらの無駄な公共事業を繰り返すものだという声、すなわち、無駄なところに事業費を投入するのではないかという声を聞くことがあります。

ご安心ください。今回の緊急経済対策公共事業では、上述したような施設の耐震・防災対策、老朽化対策が特に急がれる箇所を始め、既に着手している地域の重要路線の整備箇所で、地域の安全・安心のために緊急性が高いもの、すなわち次年度には確実に実施する予定であった事業を前倒しで行うものであり、無駄なものはまったくありません。現在、私どもが予算を投入しているその他の箇所においても、効果の大小こそあれ、無駄と評価されるほど効果の小さな箇所はないのですから、当然と言えば当然ですが…。

 

緊急公共事業の課題

実は、今回の経済対策を疑問視する声がもう1つあります。

公共事業費を投資しても、それを受ける建設業界に人がいないから意味がない、というものです。

ところで、公共事業には、新たに造られたり、寿命を延ばされたりした施設が、人々の利便性・安全性の向上や、経済活性化、救急医療の支援につながるなどの効果があり、経済学では、これを「ストック効果」と呼びます。上述した、無駄なものには予算を投入していないというのは、この効果についてのお話です。

これに対して、経済対策としての効果は「フロー効果」と呼びます。

フロー効果は、たとえば工事が実施されると、必要な資材が購入されたり建設機械や運搬車両が動いたりして、資材や車両、燃料などの関連産業が活性化され、また、それらの産業や工事の現場で従事する人たちに給料が支払われるなどして、世の中のお金が回り、経済が活性化する効果のことです。

公共事業のフロー効果については、例えば1億円の予算が3億円の経済効果を呼ぶというような相乗効果は、昔ほどはないとの評価があります。しかし、単なる人件費分野に予算を振りまいて、そのうちのかなりの額が貯蓄に回ってしまうようなケースに比べれば、確実に社会のお金が動く効果が期待できることは間違いありません。

このフロー効果という面で、工事を発注しても、現場で施工する専門作業員や監督技術者が不足してこなせない、という問題が確かにあると思います。今年1月4日の日本経済新聞記事を抜粋、要約してみます。~官民合わせた建設投資は、1992年度の84兆円をピークに2010年度は約40兆円まで縮小し、建設業の就業者も激減している。現在の建設労働者の不足率は、被災地の東北よりも北海道、関東、中部の方が大きい。これは賃金が上がった被災地に、労働者が移動しているため。建設業の就業者不足は、高学歴化や少子化を背景に高卒の労働者が減っているのも理由。~ということです。

ここで考えなければいけないことは、東日本大震災や笹子トンネル事故などを受けて、国民が安全・安心に暮らすために最低限必要な、施設の耐震・防災対策、老朽化対策などを施工するための技術者、専門作業者でさえも足りないことです。これらの対策工事は、今回の緊急対策でできるものはほんのわずかで、今後も、集中的・継続的に取り組む必要があるからです。

この技術者不足等の問題については、これまで、公共事業バッシングの下で事業費が激減していく中で、かなり以前から、私も含めた社会資本整備に携わる多くの人間が警鐘を鳴らしてきたことです。しかし、なかなか、社会の注目はいただけませんでした。

少子高齢化がますます進展する中で、既存の、すべてのインフラ(施設)を使い続けていくことは困難で、残していくべきものと捨てざるを得ないものとを選択しなければならない時代に入っています。しかし、多くのインフラは、効率的に維持補修をしながら長寿命化し、使い続ける必要のあるものです。ですから、必要な技術者、作業者は、社会として確保しておかなければなりません。

技術者や専門作業員は1日にしてできるものではありません。公共事業費の規模が、それに従事する人たちの生活も考えずに、短期的な視点で大きく上下されたのでは、そこで働き続けてもらうことや、若者に新たに就職してもらうこと、業者に機材を保持し続けていただくことは、望むべくもありません。

今後、人々の安全・安心をどう確保していくのか、国土をどう保全していくのか、この国のかたちを今後どうしていくのか、このことを皆さまに熟慮していただき、声を発していただければ幸いです。

 

職員は頑張っています

私どもの事務所では、職員が、普段から時間外勤務が多く多忙な生活の中で、現在は、補正予算の工事発注に向けた作業を、帰宅時間をさらに遅らせて頑張って進めています。よく、“お役所”と言われますが、実は、土木事務所はもともと非常に忙しく、職員の家族が、役所のイメージと違う忙しさの実情を知って驚くという話をよく聞きます。

私どもは、社会に対する責務を自覚して、最大限の努力を傾けていきます。どうか、皆さまのご支援・ご協力をお願いします。

それでは、次回まで、お元気でお過ごしください。

 

 

 

平成25年2月20日              

島田土木事務所長 渡邉 良和