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皆さま、お元気でお過ごしでしょうか。
昨年の暮れから引き続いて気温の低い日が続いていますが、皆さまは風邪を引かれてはいないでしょうか。低気温と空気の乾燥が大敵です。しっかり対応しましょう!
ところで、1月14日「成人の日」の関東地方の大雪には驚きました。ウェザーニュースの記事によれば、東京都心で8cm、横浜で14cm、千葉で8cmの降雪を記録し、首都圏としては7年ぶりの大雪だそうです。
いわゆる雪国では、この程度の降雪量はまったく大騒ぎするレベルではないと思いますが、普段、雪に慣れていない首都圏では、道路、鉄道、航空といった交通機関に大きな影響が出ました。自動車事故や二輪車、歩行者の転倒による怪我も相次ぎ、公式に集計された件数だけで1千数百件に及んだそうです。
寒い冬は、このようにさまざまなリスクがありますが、他方、空気の乾燥にはありがたいこともあります。防寒をしっかりして、夜空を見上げて見ましょう。すばらしい星空が広がっています。
秋から冬の星空は本当に美しいものですが、何と、星空を世界遺産にしようと頑張っている日本人がいるのです。
南半球ニュージーランドの南島の中央あたりに周りを山々で囲まれたテカポという村があり、その村のマウントジョンという山の頂に天文台があります。当地では周囲の山々が雨雲を遮り、年間雨量がわずか300mm(*)という気象条件から塵や水蒸気の少ない大気と真っ暗な環境が保たれているため、ほぼ満天に星が見える、世界でも有数の場所で、1960年代から地元大学などの天文台が立ち並び、天体観測の拠点になっているそうです。 (*)参考:静岡県内の私どもの管内(平地部)で、年間雨量は2,000mm程度です。
十数年前、30歳でニュージーランドに渡り、この村で星空ガイドを始めた日本人、小澤英之さんは、村に起こった開発計画に対して、開発が進んでしまうと星が見える環境を維持することが大変難しくなるため、テカポに住む人にテカポの星空の素晴らしさに気づいてもらい、皆が誇りになるものにすれば開発を止められるに違いないという発想から、「星空を世界遺産に!」をキャッチフレーズとして星空ウォッチングツアーを計画し、ガイドとして活動を行ってきたのです。
少し長くなりますが、インターネットから小澤さんのことばを抜粋してみます。
~テカポの暗い環境の保護はマウントジョン天文台を管理するカンタベリー大学が行ってきました。地元の人々の協力を得ながら進めてきた星空保護ですが、西欧世界で続いたバブルの波がニュージーランドのテカポにも押し寄せ、2000年には村の再開発計画が持ち上がりました。商用地や住宅地を現在の20倍に広げ、将来的には一大観光地にしようというものです。好景気は町や多くの人々を再開発と不動産投資へ向かわせました。
村では住民集会が開かれ、どんな施設を作り、どんな町にしてゆくかが話し合われましたが、その中には「何もしないで現状のままにしておく」という選択はありませんでした。 開発はほとんどの人に賛成され、「何もしないでおく」という私の意見は相手にされませんでした。
しばらくして開発の青写真はできあがり、計画は進みだしました。開発を止めるには、テカポに住む人にテカポの星空の素晴らしさに気づいてもらい、皆の誇りになるものにしなくてはなりません。星空を世界遺産に、という考えはそんな中から生まれたものです。
その後、再開発計画は具体的に進みだしますが、転機がやってきます。 2008年にあったリーマン・ショックです。リーマン・ショックの影響はニュージーランドへも及び、軒並み大きな開発が見直しになったり中止になりました。 テカポでも具体化していた大きな商用地区の開発が見送られました。
そんな折り、2003年頃からニュージーランド人の協力者(Graeme Murray氏、John Hearnshaw氏、Margaret Austin氏)を得て進めていたニュージーランド政府やIAU(世界天文学連合)、UNESCOへの働きかけも少しずつ動き出し、賛同してくれる海外の天文台などが現れ始めました。リーマン・ショックのあった翌年、2009年の世界天文年には、IAUとUNESCOが共同で式典を行い、星空の保護について話し合いがおこなわれました。
翌2010年ブラジルであったUNESCO総会では、初めてStarlight Reserve と言う言葉が使われました。 その席上、ニュージーランド 代表やスペイン代表から星空自然遺産に関する説明が行われています。
ニュージーランド国内でもTekapo-Starlight Reserveという見出しでテカポの星空がニュースになり、星空世界遺産は皆の注目するところとなりました。このニュースはテカポの村でも話題となり、地元の人達はそれまで当たり前に毎晩眺めていた星空が、世界で指折りの綺麗な星空であることに気づくことになります。
2012年6月11日から3日間、テカポで3回目となるInternational Starlight Reserve会議が開かれました。世界中から天文台関係者や、星空保護に取り組んでいる人々が集まり、暗い環境を保つ取り組みや、生物に与える影響などについて話合われました。 星空が綺麗に見える暗い環境も、守らなければならない地球環境の一つである、ということが参加者達の共通の認識でした。
この会議の前には、テカポが最も綺麗な星空を持つStalight Reserveである、との発表がIDA(International Dark sky Association)からありました。 テカポのあるMackenzie盆地全域がその対象です。今回のStarlight Reserveとしての認定はUNESCOによるものではありませんが、初めて世界に認められた受賞となりました。
将来UNESCOが、星空を自然遺産に含めることにした場合、テカポはその良いテストケースとなるでしょう。現在もニュージーランドの環境庁(Department of conservation)が中心となってUNESCOへの働きかけを続けています。
暗い環境の維持と村の開発の両立は、簡単なことではありません。テカポのことをニュースで知り、星を見に来る人は、星が見える暗い環境を求めてやってきます。
また、テカポに住む人も、星が見えなくなってはお客様が来てくれません。星空に関心を持つ旅行者や住民が増え、両立させる良い方法が見つかることを願っています。~
今では、年間1万人が参加する小澤さんの星空ウォッチングツアー。日本からも多くの方々が訪れているようです。当地では、住民も照明を抑え、街灯は光が拡散しないものに替えるという努力をされているそうです。
今回は、私が行ったことがない場所の話を正確に伝えようと、インターネットからの引用部分が多くなってしまいました。
この話題は、私が昨年の暮れに、テレビ番組で1人の若い男性に関する特集を見たことがきっかけです。プラネタリウムの設計に心血を注ぐ彼は、子供の頃からプラネタリウムに興味を持ち、自作でいくつも投影装置を製作してきましたが、本当の星空は、現在一般に投影されているものよりも、はるかに多くの星々にあふれているとの思いから、テカポの美しい星空に行き着き、テカポの星空の写真を貼り合わせて、それを元にプラネタリウムをつくることにしたのだそうです。
番組でテカポの星空の映像を見たときには、テレビがハイビジョンになったことに感謝をしつつ、強い感動を覚えました。
星空の真の美しさに接することは、日本国内では、大気中の水蒸気や塵、そして人間がもたらした光害の影響から、かなり難しいと思われます。現在、ユネスコには星空を世界遺産に登録する分類はないそうですが、テカポのような地の利を活かして、このような形で地球の自然を守っていくことは、すばらしい取組みと思います。世界遺産登録の実現に向けては、地域の開発を望む方々の異論もあるようですが、価値観が共有されて美しい星空が守られることを期待したいと思います。
それでは、次回まで、皆さま、お元気でお過ごしください。
平成25年1月22日
島田土木事務所長 渡邉 良和