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いよいよ師走です。皆さま、お元気でお過ごしでしょうか。
気温が下がり、吹く風も冷たく、気がつけば今年も残すところ1ヶ月となりました。皆さまも、もう節電対策を含めた冬の支度ができましたか。
さて、今回は、公共事業に関わる少し固いお話です。
皆さまは、現在、私どもの事務所、すなわち静岡県島田土木事務所で建設中の「はばたき橋」をご存知ですか。
この橋は一級河川大井川を跨ぐ橋長942mの橋で、国道150号富士見橋や、県道島田吉田線の谷口橋、島田大橋の渋滞を緩和・解消するために建設されています。事業上の橋梁名は「大井川新橋」ですが、その後の名称公募により「はばたき橋」が正式名称となりました。また、この橋は、藤枝市や焼津市方面から富士山静岡空港へのアクセス道路としても大いに使い勝手のよい位置にあるため、周辺地域からの期待が極めて大きいものです。
この橋と両岸の取付道路を加えた整備延長は3.7kmで、平成11年度に建設事業に着手しました。事業では最初に現地測量や地質調査を実施、次に道路や橋の設計を進め、用地調査に引き続いて各地権者に用地のご提供をいただく契約を結び、これまで工事を進めてきました。しかし、大井川右岸側(島田市地内)に一部、用地のご提供に理解をいただけない区域が残ってしまいました。そして、その区域に関しては、事業着手以来、長年にわたり交渉を行ってきましたが、事態の進展はほとんど見られませんでした。
一方で、完成すれば大きな効果が得られることが明らかなことから、1日も早い完成を目指して施工可能な部分の工事を急ぎ、その結果、平成20年頃には、その一部区間を除き工事が完成に近づいてきました。しかし、用地の契約ができていない区域については、相変わらずその先の目処が立ちません。
このような場合にはどうなるのでしょう。
わが国では、こうした場合を想定した「土地収用法」があります。
これは、公共事業の効果すなわち公共の利益の増進と私有財産との調整を行う法律で、その土地が公共事業用地として利用されることが適正かつ合理的であることを明確に確認したうえで、公共用地としての収用や使用を認めるというものです。県内では過去に、国道1号静清バイパスや静岡空港、新東名高速道路の建設事業などで適用されました。
その手続きでは、まず、法の適用条件に合致した事業であることを示す事業認定を受ける必要があり、その認定を行う国土交通省では詳細な検証を実施します。今回のはばたき橋では事業認定申請から認定までに1年以上かかり、その正式な申請に先立つ協議段階でもかなりの日時を要しました。
事業認定されると、次は、県の収用委員会に対して収用裁決申請を行います。地権者に支払う補償額や、地権者が事業者に土地を明け渡す期限などを決定していただくためです。収用委員会により、関係者の出席を求めて審理が進められ、委員会は事業者、地権者双方の主張・意見を聴いたうえで裁決を行います。イメージとしては裁判のようなものを想像してください。裁決により、事業者には定められた期日までに補償金を支払う義務、地権者には期限までに用地を明け渡す義務が生じます。
上述した形で収用裁決が行われたにもかかわらず、地権者が対象用地内に存在する物件などを撤去しない場合には、事業者は代執行庁(県知事)に対して代執行請求を行います。それを受けて代執行庁は、改めて、しかるべき新たな期限を示して地権者に対して督促を行います。それでも地権者が応じない場合には、地権者に代わって代執行庁が物件などの撤去を行うことが可能となります。それらの手続きなどを定めた法律が「行政代執行法」です。代執行により物件撤去などに要した費用は、地権者に請求されます。
前述した国道1号静清バイパスや静岡空港、新東名の建設事業では、行政代執行に至る前に地権者が自主的に物件の撤去を行いました。
しかし、今回のはばたき橋では地権者が自主撤去をしたのは一部で、大部分が行政代執行となってしまいました。
現在、県で代執行を進めており、物件撤去の完了は来年1月末の予定です。その後、残された工事を大急ぎで進め、はばたき橋の開通は来年の秋頃と見込んでいます。
土地収用法や行政代執行法の適用は、できれば避けたいものです。しかし、公共の利益と地権者の主張が平行線になって決着の見通しがつかなくなった場合には、第三者により、状況を十分に把握したうえで法の下に決着を図るやり方は、法治国家における一つの妥当な解決方法と考えられます。
大きな効果が期待できるはばたき橋を1日も早く開通させ、皆さまに笑顔でご利用いただける日を思って、今後とも力強く事業を進めていきたいと思っています。
今回は、私ども行政が行う公共施設の整備に関わる、公共の利益と私有財産との調整の仕組みについて紹介させていただきました。
私有財産権は、わが国では諸外国に比べて非常に強いものとなっています。ヨーロッパ諸国でもアジアでも、本来、土地は公共(国)のもので国民は使用権を持っているのみであり、公共事業用地になれば明け渡すのが当然とされている国が多いそうです。もちろん、必要な移転補償の類は支払われると思います。
お隣の中国では、地方役人が住民から少額の補償金で土地を引き取り、開発者に高額で渡して大きな儲けを得るという話も、マスコミでしばしば紹介されます。
公共の利益と私権との調整は非常に難しい問題ですが、わが国の将来に向けては、より効果的・効率的な公共施設の整備、維持管理のあり方を構築していく中で、同時に検討されなければならないものかも知れません。
それでは、次回まで、忙しい師走をお元気でお過ごしください。
平成24年12月4日
島田土木事務所長 渡邉 良和