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南海トラフ巨大地震による被害の想定と我々の心構え

 
 島田土木事務所長 渡邉 良和  
  • ※写真は所員からの報告事項に対し指示を出す筆者

 

連日、最高気温が30度を超える厳しい残暑が続いていますが、皆さまお元気でお過ごしでしょうか。今年の夏の暑さは、気象庁が、今年8月の日本の平均気温は平年より1.13度高く、戦後3番目の高さであったと発表したほどですから、暑いはずです…。

さて、8月29日に内閣府は、「南海トラフ巨大地震」の津波高推計や被害想定を発表しました。この情報に関しては、国民全体の関心が高く、新聞やテレビなどでかなり詳しく解説していますが、それらに目を通す時間がなかった皆様のために、私なりにポイントを整理し、お示ししてみたいと思います。

 

南海トラフ巨大地震

まず、「南海トラフ」とは何でしょう。これは、駿河湾内の富士川河口付近から四国の南を経由して九州の東側を通り、琉球海溝(沖縄の東方)につながる、水深4,000m級の深い溝を指します。ちなみに、“トラフ”は、一般的には、細長い箱や樋(とい)、溝、谷などを示す英語です。

どうしてそのような海溝ができるのか。それは、現在、「プレートテクトニクス」という理論で説明されています。

それによると、地球には地盤の板(プレート)が十数個あり、それらが移動しているため、プレートが遠ざかる移動では大昔につながっていた大陸が離れて別々の大陸になっていたり、逆にプレートが近づく場合は片方が他方の下に潜り込む現象が起きたりする。この潜り込みが起きると上側のプレートも下方に引きずり込まれ、溝地形が生まれるというわけです。

そして、下方に引きずり込まれ続けた上側のプレートが耐え切れなくなると、上に跳ね上がり、このとき地震が発生すると考えられています。

今回の内閣府の発表は、駿河湾内の富士川河口断層帯の北端付近から九州日向灘沖日向灘南西方向までに及ぶ範囲を最大の震源域として、さまざまなパターンで計算して、地震の規模や、予想される最大の震度や津波高を推計したものです。

なお、これまで静岡県が対策を積み上げてきた東海地震は、南海トラフの北端部である「駿河トラフ」のみを震源域と想定したものです。

 

発表された震度分布、津波高、被害想定

今回は、3月31日に内閣府が発表した同様の情報を更新する形で、推計の精度を高めたものが出されました。

今回発表の情報のうち、まず震度分布については、250mメッシュ単位で推計され、安政東海地震の情報を元に推計した第3次地震被害想定に比べて多くの地域で震度が高くなりました。静岡県内では、第3次想定では最大の震度7のエリアが新東名高速道路よりも南側で地盤がよくない平野部に点在しており、面積は非常に小さかったものが、今回の推計では、富士市以西の川根本町と富士宮市を除くすべての市町(23市町)に及んでいます。第3次想定で震度6弱や6強とされたエリアが、伊豆地域や東部地区を除き、軒並み1~2ランクアップとなっています。また、第3次想定で大部分が震度6弱であった伊豆地域は、今回、震度6強となり、結局、最低の震度6弱のエリアは県内で東伊豆町と河津町のみとなりました。

次に、津波高については、今回は地形情報が10mメッシュ単位で計算され、50mメッシュ単位で計算された3月31日発表のものから少し変化がありました。

主な所では、下田市が25.3mから33mに、南伊豆町は25.3mから26mに、松崎町は20.7mから16mに、沼津市は13.2mから10mに、御前崎市は21.0mから19mに、浜松南区は14.8mから16mになっており、私どもの管内では焼津市が10.1mから11mに、吉田町は8.7mから9mに、牧之原市は12.3mから14mになりました。

これらは、あくまでも上述した南海トラフを震源として計算した最大(最悪)のケースです。

 

今後の心構え

今回発表されたデータを見た第1印象として、これでは対処のしようがないと考えられた方々も多くいらっしゃるのではないでしょうか。また、巨大地震の規模や被害想定がかなり明確に示されたから、いよいよ地震の発生が近づいたな、と考えられた方々もいらっしゃると思います。

しかし、この地震はいわゆる千年から数千年に1度程度起きるレベルのもので、現時点で発生の時期は予測できる段階になく、当然、今回の発表とは関係なく、“自然現象として起きる時に起きる”という類のものです。この大規模地震の前に、例えば安政東海地震のような100年~200年に1度起きる規模の地震が起きる可能性もあるし、それ以下で相当規模の地震が数多く発生する可能性も十分あるのです。

したがって、この大規模地震のみにとらわれることなく、今できる対策を迅速に実施することが必要です。特に、自助(自ら守ること)が最重要であり、共助(地域などで助け合う)のレベルアップも必要です。(*「自助」、「共助」、「公助」については、今年7月23日のこのページも参考にしてください。)

「自助」のためには、建物の耐震化(地盤の液状化対策も必要です)、家具の固定・転倒防止、非常食の準備、避難場所や避難ルートの確認、家族との非常時対応の相互確認など、平時に行っておくべき準備があります。

先日のテレビ番組では群馬大学教授の片田敏孝氏が、命を守るための心構えとして、以下の3つを示されました。

1 想定にとらわれるな!

2 最善(ベスト)をつくせ!

3 真っ先に逃げろ!

これらを、氏が岩手県釜石の子供たちに防災教育をしてきたなかで子供たちに教え込み、その結果、“釜石の奇跡”と呼ばれるように、放課後、ばらばらに友達と、あるいは個々に過ごしていた184人の児童全員が、自力で巨大津波から身を守ることができたということです。

番組の中では、それまでの津波予想高や浸水予想地域、津波ハザードマップの情報にとらわれ、まさか自分は被災しないだろうと考えて避難しようとしなかった大人たちとの対比をしながら、上記の心構えの大切さを説明されていました。また、家族の絆とは、一緒に避難をするために家族を探して、あるいは家族が自宅などに到着するのを待って逃げるのではなく、事前に打ち合わせておいて一刻も早く個々に逃げることを相互に信じあい、避難場所で無事を喜び合うことだという話も出ていました。

この事例では、津波が対象となっていますが、これらの心構えは、大雨や洪水により引き起こされる住宅地の浸水や斜面崩壊、土石流などに対しても活かすことができます。

また、「共助」についても準備が必要です。

私は、今年、自分が居住する地区の会合で自主防災訓練計画の議論がされた時、地区の全住民を対象に「防災用住民台帳」を作成して各班長に保管・管理させ、非常の場合に避難場所で、救出が必要な班員を迅速に特定することにつなげようと意見を出し、採用されました。

台帳に記載される住民は、日常的に自宅(地区内)に居住する者で、単身赴任や自宅から離れて大学などに通っている者、何らかの施設で暮らしている者は対象外です。各人の勤務先・通学先や、自力歩行の可否も記載され、数ヶ月など一時的に自宅外に居住している者などの情報も書かれています。

台帳は個人情報満載のため、このように、あくまでも非常時の救助(共助)に目的を限定して作られ、管理されています。これにより、有事の際の区民の安否確認や救助活動が迅速なものとなるよう期待しています。

 

今回は、危惧される巨大地震に関する情報と、それらの有事に備えた心構えについてお伝えしました。「自助」、「共助」の両面で、皆さまにも、早期の着実な準備をお願いしたいと思います。

 

それでは、次回、またお元気でお会いしましょう。

 

                                  平成24年9月5日
                                     島田土木事務所長 渡邉 良和