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皆さま、お元気でお過ごしでしょうか。
前回は、珍しく6月に襲来した台風のお話をしましたが、先週7月3日には梅雨シーズンの中で大雨が降りました。
この大雨により、私どもの管内、牧之原市静波では、民家裏の山腹斜面が崩れて土砂が斜面を流れ下るとともに、斜面に生えていた多数の樹木が倒れて家屋に倒れ込みました。
しかし、土砂の家屋への侵入は、県がそのような場合に備えて民家裏に設置してあったコンクリート擁壁に食い止められ、当時、住民が家屋の中にいらっしゃったのですが、かすり傷一つ負うことなく、その後、退避されたということでした。不幸中の幸いで、コンクリート擁壁が無ければどうなっていたか、本当に良かったと胸をなでおろしました。
今回の斜面崩壊は、急傾斜地崩壊対策施設(コンクリート擁壁)が整備されていた箇所で起こり、事前の対策が極めて有効に働きましたが、実は、対策が必要でも予算の関係でまだ着手できない箇所が数多く存在するのです。
平成24年1月6日のこのページで、洪水時の越流を心配される住民の皆さまの満足からはほど遠い、河川内に堆積した土砂の現状や、幹線道路脇の雑草、植樹帯の手入れも十分にできない実態を紹介しました。これらは近年の公共事業費削減の影響ともお伝えしました。
そのような中で、県内の浜松市が管理する国道473号の吊り橋「原田橋」(浜松市天竜区佐久間町)では、橋を吊るケーブル(ピアノ線)の一部が破断していることが判明し、一時期通行止めになっていました。その後、新たな補強をして、通行車両に制限をしながら通行を再開していますが、我々が日常的に利用している公共施設にも、老朽化や寿命があるということを、改めて認識された方も多いのではないでしょうか。
平成24年4月24日のこのページでは、東名の事例から、老朽化や長寿命に向けた方策についてのお話をしました。
国土交通省のデータによれば、都道府県や市町村が管理する橋梁で、通行止め、または損傷・劣化による規制、古い設計等が理由の重量規制を合わせたものは、平成20年4月時点で977橋、平成23年4月時点で1,874橋と急速な伸びを示しています。
ちなみに、道路は、交通機能面からの重要度が、一般に、国道、都道府県道、市町村道の順になりますが、維持管理の充足度も同様の傾向になっています。その主因は、各々が管理する橋梁数と予算の充足度にあると考えられます。管理者別の橋梁数は、高速自動車国道が約6,900橋、国が管理する国道が約12,400橋 、都道府県や政令市が管理する国道・都道府県道が約47,300橋、市町村道が約90,800橋です(H22.4.1現在)
そして、わが国では、道路の種別を問わず、高度経済成長期を中心に多くの橋が建設されたため、このまま手をこまねいていたのでは、このような老朽化による通行規制は、今後、間違いなく激増するのです。
以上、公共土木施設の維持管理面について触れましたが、新たな整備という面の課題もあります。
今年4月14日に新東名の県内区間162kmが開通しました。県ではこれに合わせて最小限度のアクセス道路整備を進め、厳しい予算の中で、何とかその開通に間に合わせました。しかし、新東名開通の効果を十分に発揮させるためには、各地域における重要な道路網の未整備区間を1日も早く進める必要があります。
全国的に、「社会資本を整備する時代は終わった、今後は既存施設の維持管理をするだけでいい」という意見をしばしば目にします。本当にそうでしょうか。ある意味、地下鉄や公共バスなどが充実した都市部に住んでいる人たちには、そのように思えるのかもしれません。しかし、そのような意見の人たちは、国内各地域の将来をどのように考えているのでしょうか。
たとえば、私どもの管内を見ても、新東名島田金谷インターから川根・奥大井方面に向かう国道473号は、観光バスと普通車がすれ違うだけでも最徐行が必要な区間が多くあり、観光で今後を生きていくべき当地域の死活問題とも言えます。また、志太地域の、藤枝市・焼津市方面から富士山静岡空港や、平成28年春に供用予定の(仮称)東名大井川藤枝スマートインターへのアクセス道路となり、両市と島田市を合わせた志太地域の連携に必要な、都市計画道路小川島田幹線および志太中央幹線の整備も、未だ手のつかない区間が多くあるのです。
このような新規の整備にも、地域が将来を生きるために、わが国が国際間競争に勝ち抜いて活性化していくために、どうしても必要なものに絞るにせよ、力強く進めなくてはならないものがあるのです。
国の平成24年度の当初予算は、一般会計と特別会計を合わせて229兆円、そのうち、国債の利払いなどが85兆円で37%、年金、医療関係費が76兆円で33%を占め、公共事業費は6兆2千億円で2.7%という内訳です。
ちなみに、平成23年度当初予算は、一般会計と特別会計を合わせて220兆円、そのうち、国債の利払いなどが37%、年金、医療関係費が34%を占め、公共事業費は5兆9千億円で2.7%でした。
公共事業費は、ピーク時であった平成1桁代に比べて半減のレベルが続いています。
皆さまは、暮しの中で、本当に、身近な道路や河川、住家を守る災害防止施設など、多岐にわたる公共施設の現状が満足できるレベルにあると、感じていらっしゃいますか?本当に必要な分野に、きめ細かく、的確に予算が割り当てられているとお考えですか?
上述したような、命を守る急傾斜地崩壊対策施設や橋の老朽化、地域に必要な道路網整備のほか、橋の耐震化、道路の慢性的な渋滞の解消、歩行者の安全確保、河川の改修、津波対策等々、課題はまさに山積なのです。
私は、公共事業予算の規模は必ずしも客観的な判断からでなく、公共事業に貼られた悪しきレッテルのイメージを政治が利用し、予算総額の調整に利用されてきたと、少なからず感じています。
国会では、社会保障と税の一体改革やら、消費税先行増税やら、重要テーマが政局に翻弄されて十分な議論がなされず、月日をむなしく過ごしている気がします。本来は、この国の将来に向けてじっくり腰を落ち着けた議論がなされるべきものです。
そして、その中では、国家予算のわずか3%足らずの社会資本整備予算のあるべき姿も、十分に議論されるべきと強く思っています。皆さまはいかがですか?
今回は、公共事業の効果と予算に関わるお話をさせていただきました。
梅雨明けまでもう少しですね。昨年のこの時期には、30度を超える日が既に何日もあったことを思い出せば、毎日の蒸し暑さも少しは気が紛れるのではないでしょうか。
それでは、お元気でお過ごしください。
また、お会いしましょう。
平成24年7月9日
島田土木事務所長 渡邉 良和