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 土木構造物の寿命と東名高速道路の補修



 
 

島田土木事務所長 渡邉 良和  

 

皆さまお元気でお過ごしでしょうか。
 ようやく春らしさが増し、お茶の産地である当事務所管内でも、各所に広がるお茶畑はいよいよ新芽の柔らかな緑色に染まり始めました。
 私は、子供の頃から、この一面に広がるお茶畑の新芽の絨毯を見るのが大好きでした。いつもすがすがしく、何とも言いがたい心の安らぎを覚えるのです。気持ちが落ち込んだようなときも、この絨毯に囲まれていると元気が湧いてくる気がします。我々の周りにはさまざまな植物があるのですが、私にとって、このお茶の新芽の絨毯だけは特別です。
 さて、この4月14日に、待望久しかった「新東名高速道路」が開通しました。開通区間は静岡県内の御殿場から三ケ日までの間162kmで、その両端で東名と結ばれています。新東名の特徴や開通の効果は平成24年2月2日のこのページに書かせていただきましたが、実は、それ以外にもう1つ大きな効果があります。

 

◆土木構造物の寿命

東名高速道路の全線、すなわち、東京を出発して愛知県小牧市で名神高速道路に接続するまでの346kmについて、全線がつながったのは1969年(昭和44年)5月26日だそうです。したがって、すでに開通後40年以上を経過しました。

 土木構造物の寿命は50年がひとつの目安という考え方があります。その考え方に立てば、東名はもう直ぐ寿命を迎えることになります。しかし、我々が普段利用している東名も、もう少し古い1964年(昭和39年)10月1日開業の東海道新幹線も、まもなく突然壊れてしまうというのは信じられない気がします。
 土木構造物の寿命はどのように考えればいいのでしょうか。
 コンクリートや鋼材などでできている土木構造物の寿命も、一般のさまざま製品と同様に、材料や構造そのものの耐用年数に大きく左右されます。
 このうちの鋼材については、工場製品のため品質にばらつきの少ないものとなりますが、それに比べて現場で固まっていくコンクリートの場合は、品質にばらつきが出やすくなります。まず、昭和の後期以降にコンクリートプラント(工場)で生コンクリートが練られるようになるまでは、骨材(砂利や砂)やセメント、水といった材料の計量誤差も大きかったであったであろうし、生コンクリートを型枠に投入してからしっかり固まるまでの約1ヶ月における、現地の気温や湿気、さらには生コンクリートを投入した直後の締め固めの丁寧さにも左右されます。
 また、構造物が鉄筋コンクリート製の場合には、コンクリート内部の鉄筋が設計図どおりに配置されているかという問題があります。鉄筋がコンクリート表面に近すぎると錆びやすくなるし、表面から奥にありすぎると外部から力が加わった時に十分に耐力を発揮できないというようなことになるため、耐久性に影響を与えるのです。
 材料や構造の面から考えると、以上のようになります。しかし、土木構造物の寿命に対しては、ある意味ではもっと重要な要素が3つあります。
 1つには、構造物の周りの自然環境です。
 土木構造物は設置された後、常に外気にさらされ、その設置場所ごとに異なる日照や風雨、気温の影響を受けます。
 例えば鋼材は、設置場所が海岸に近ければ潮風の影響を受けて極めて錆びやすくなるし、海岸に遠くても、山地部の日陰で風通しのよくない場所などでは、常に湿気の中にあるため、錆びやすくなります。コンクリートでも、雨の当たり方や毎日の気温の変動の大小、潮風の有無などにより寿命が変わりますし、鉄筋コンクリートの場合には、その影響はさらに大きくなります。
 2つには、構造物に対して、設計以上の大きさで外部から加わる力の影響です。道路で言えば、大型貨物自動車などの過積載の問題がこれに当たります。
 公道を走る車は、道路運送車両法などの法令で貨物等を含めた車両総重量の上限が定められています。そして、橋梁や舗装などの道路構造物を設計するときには、無駄に強すぎるものを造ることは予算の浪費につながることから、法令で定められた車両総重量を想定して設計します。ところが、法令を守らない過積載の車両が少なからず存在し、想定外の重さを構造物に作用させて、構造物の耐用年数に影響を与えているのです。
 3つには、構造物が外部からの力を繰り返し受け続けることの影響です。
 土木構造物に限らず通常の材料の多くは、外部から加わる力がその材料の耐力に比べて余裕がある場合であっても、その力を繰り返して受け続けると、材料が劣化し、やがて破壊に至ることがわかっています。この現象を“疲労劣化”、“疲労破壊”と呼びます。この現象は、現在、首都高速道路や新幹線などの構造物の劣化の話題としてしばしばマスコミに登場するのですが、東京オリンピックの開催に向けて突貫でそれらが造られた当時は、設計上、必ずしも十分には意識されていませんでした。
 以上、土木構造物の耐用年数に影響を与えるさまざまな要因を挙げてみました。
 冒頭で、土木構造物の寿命は50年がひとつの目安という見方を紹介しましたが、その見方は、わかりやすく言えば多分に“イメージ”的なものがあり、詳細な技術論に基づいたものではないということになります。結局、劣化のスピードには構造物個々に差異があるため、個々に着目して、より効果的、合理的に補修や補強をする必要があるということです。

 

◆東名高速道路の劣化対策

東名高速道路の構造物についても、上に挙げたさまざまな要因により劣化が進んでいます。また、東名の場合は、特に、設計時点ではとても予測できなかったような、設計交通量の2倍近い交通量を受け持ってきているため、構造物は、より厳しい環境におかれてきたという事情もあります。わが国が高度成長する中で、自動車交通が大きな役割を担ってきたことにより、交通量が想定を超えて大きく伸びたという背景があります。
 しかるに、この極めて重要な社会インフラ(基盤)が劣化し、朽ち果てていくのを黙って見過ごすことは到底できません。
 さて、構造物の補修や補強を計画するのに、重要なことがあります。
 我々の身近にあるさまざまな物について考えればわかるように、多くの物は、完全に壊れてしまうと新たに作り直さざるを得ませんが、傷が小さなうちに気がついて修繕をすれば、費用も余りかけずに直せるものです。
 土木構造物として鋼製の橋を考えると特にわかりやすいと思います。少しだけ錆が出てきた頃に、磨いて錆を落としてペンキを塗ればそれで十分ですが、その錆に気づかないとか、気づいても対処する予算が確保できないとかにより、その時点で手を入れないと、結局、鋼材の腐食が進み、ある時点では当て板が必要になり、やがては架け替えが必要になるということになります。
 東名では、1日に7万台~8万台の交通量を受け持っているため、工事通行規制もままならず、傷が浅いうちの小まめな補修が、日常的には必ずしも十分にはできてこなかったと思われます。また、劣化が既に進んでいる部分について、近年は、毎年秋に集中工事期間を設けて補修や補強が行われていますが、その期間中は例外なく著しい交通渋滞を引き起こすので、その工事日数も絞らざるを得なかったというのが実情と思われます。したがって、その集中工事期間においても、効果的・合理的な劣化対策をやり終えることは困難で、残念ながら、これまでに劣化が確実に進んでしまったというのが実情ではないでしょうか。
 そこで、これまでの「東名」の通行量を半分程度にまで減少させることになる「新東名」の開通が、東名の通行規制をこれまでよりもはるかに実施しやすくし、本格的な劣化対策を可能にさせるという点で、非常に大きな意味を持つということになります。東名高速道路に、もし感情があるとすれば、「新東名の開通を首を長くして待っていた」というところではないでしょうか。
 東名は、それほど遠くない時期に50歳を迎えるのですが、近い将来にしっかり手入れをすることにより、まだまだ長期間の活躍が期待できますし、そうでなければなりません。それが前提となって、新東名と東名のダブルネットワークによる、人流・物流の活性化や災害時の動線確保が可能となるのですから。
 東名や新東名を管理・運営するNEXCO中日本では、新東名開通後の東名の補修・補強計画について、まだ公表をされていないと思いますが、おそらく、近い将来には対策に着手されると思います。その際には皆さまにも、上述した事情をよくご理解の上で、東名の通行規制に伴う不便さにご理解・ご協力をいただきたいと思います。

今回は、新東名高速道路開通の、もう1つの効果について触れてみました。
 気温が上がり、身体を動かしやすい時季となりました。自分のレベルにあった運動などを行うことで、健康な毎日を送りたいものです。
 それではまた、次回、元気でお会いしましょう。



                                  平成24年4月24日
                                     島田土木事務所長 渡邉 良和