平成23年3月15日 更新 |
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静岡県は太田川ダム建設地とその周辺における自然環境保全対策の策定を目的として、猛禽類(もうきんるい)など自然環境に関する学識経験者からなる「太田川ダム環境保全対策検討委員会」を平成9年11月に設置し、3年間にわたり保全対策の検討を行いました。
委員会から、平成12年3月16日に、残土処理計画地の見直しなど17項目からなる保全対策を盛り込んだ「太田川ダム建設に伴う環境保全に関する提言書」が県に提出されました。
静岡県はこの提言内容を尊重し、建設工事を推進していきます。
静岡県は、委員会の指導のもと、つぎのような調査を、平成9年から平成11年までの3年間にわたり行いました。
【猛禽類(クマタカ・オオタカ)】
●建設地周辺(約30平方キロメートル)における生息状況や行動範囲などを、明らかにする。
●ダム建設地を中心とした、広い地域(約200平方キロメートル)における地域個体群の生息状況を把握する。
【猛禽類以外の動植物】
●建設地周辺(約5.7平方キロメートル)における生息状況を明らかにする。
この結果、ダム建設地周辺に生息・生育していた動植物のうち、静岡県環境影響評価要綱(静岡県、1994)にしたがって、既存資料より抽出した特定種(貴重種)は、次のとおりでした。
クマタカ | 2つがい | |
オオタカ | 1つがい | |
植物 | 14科25種類 | |
動物 | 魚介類 | 5種 |
底生動物 | 2種 | |
鳥類 | 12種 | |
両生類 | 3種 | |
ハ虫類 | 該当なし | |
ほ乳類 | 6種 | |
昆虫類 | 11種 |
委員会は、保全対策として、次の6項目を提言した。
1.事業の計画変更などによる対策
(1)残土処理計画地の見直し
今後、残土処理を計画している処理場2箇所のうち1箇所は、調査結果より次のようなことがわかった。
●オオタカ及びサンコウチョウにとって繁殖上重要な場所である。
●植物特定種が多数生育する。
●タゴガエルやムカシトンボなどの水生動 物にとっても良好な生息環境を保っている。
このことから動植物の生育・生息環境として、最も重要な場所であると考えられるため、残土による埋め立てを回避することが有効であると考えた。
(2)付替道路計画の見直し
付替道路は、クマタカの主な採餌場所である広葉樹林の一部を伐採する計画となっているが、この生息環境を守るため、計画を一部見直す必要がある。
また、杉沢左岸については、多様性のある自然環境の創出及び自然観察のできる遊歩道への計画変更を検討することが望ましい。
(3)工事期間の制限
クマタカの営巣中心域への立ち入りは、繁殖に悪影響を及ぼす可能性が高いため、営巣期(1月〜7月)には、営巣中心域内の工事を中断し、人の立ち入りも避ける必要がある。
ただし、モニタリングにより、繁殖行動が見られない年は、4月以降の工事の実施は問題ないと思われる。
(4)植物個体の移植
他の保全対策による生育環境の保全が不可能な場合、移植による保全措置を検討する必要がある。
複数の移植候補地における現地調査結果に基づき、各特定種の移植先及び移植可能な個体数を検討した結果、ヤシャゼンマイとアキハギクを除くすべての消失個体をそれぞれの移植適地へ移植することが可能であり、移植による保全が妥当と判断された。
また、ヤシャゼンマイとアキハギクについても、可能な限りの個体数の移植が望まれる。
2.施工方法の変更などによる対策◆
(1)発破音の防音対策
橋やトンネルなどの工事で、ダイナマイトを使用するときは、鳥類への影響を減らすため、防音対策が望まれる。
また、クマタカへの影響が大きいと予想される区域では、8月〜12月の間に発破作業を実施することが望ましいが、工程上、調整が難しい場合は、防音シートなどによる厳重な防音対策を行い施工されたい。
ただし、モニタリングにより、繁殖行動が見られない年は、4月以降の工事の実施は問題ないと思われる。
(2)工事中の濁水、アルカリ排水の流出防止
ダム堤体工事中は、濁水処理施設の設置と河川の切廻しにより、濁水やアルカリ排水による動植物への影響は十分に低減できると考えられる。
しかし、ゲンジボタル等の水生動物に与える影響で、不確実な点もあることから、調整池、沈砂池の沈砂機能等より、濁水の流出防止に万全を期す必要がある。
(3)照明に対する配慮
ゲンジボタルやヒメボタルなどホタル類は、夜間発光することによって雌雄のコミュニケーションをとるため、夜間照明の存在は繁殖行動の阻害となる可能性がある。
また、ガ類などは主に夜間生活に適応した生理上のしくみから、自然界には存在しない光源に誘引されることが多く、繁殖行動を含む生息行動の阻害となる。
したがって、照明を設置して夜間も工事を行う場合や、供用後の街路灯などの整備にあたっては、光源の種類や設置場所に十分配慮する必要がある。
(4)動物の移動経路の確保
大型動物は生活する場所が広く、付替道路が森林域と水辺を分断する可能性がある。
したがって、谷部分は橋梁とすることによりニホンカモシカ、タヌキ、イタチなどの移動経路を分断しないよう配慮する必要がある。
また、側溝は、小動物が落下しない構造とすることが望ましい。
(5)ダム湖の水質調査の実施
ダム湖の水質については、著しく悪化する可能性は、ほとんどなく、水質浄化対策は必要ないと考えられる。
また、ダムから常に流れ出る水の量は、太田川下流域でも、動植物の生息に必要な量が確保される計画となっている。
ただし、問題がないことを確認するために、ダム湖内や下流域での定期的な水質調査を実施する必要がある。
(6)のり面や湛水区域周辺の緑化
付替道路などで、新たにできるのり面は、郷土種(地域に自生している樹木など)による緑化が望ましい。
また、残土処理計画地についても、埋め立て完了後は郷土種による樹林化を目指すことが望まれる。
なお、植栽にあたっては、極力落葉広葉樹と常緑広葉樹を混在させ、動物の生息に適した環境を整備することが大切である。
3.その他の対策
(1)新たな生息・繁殖環境の整備
ヤマセミやモリアオガエルは、湛水後、他の場所に繁殖地を求めて移動していくと思われるが、新たな繁殖地として使用できるような場所を整備することにより、種の存続を介助することが望ましい。
さらに、この地域はゲンジボタルの多産地であり地域を代表する種のひとつであるため、この地域から本種が姿を消さないことを願う地域住民も多いはずである。
幸いに、主たる生息地が湛水区域外であることから、この一帯で、水質保全や生態系に配慮した生育環境の保全も望まれる。
(2)ゴミ処理の徹底
工事中の作業員や供用後の来訪者により、持ち込まれた食べ残しなどの処理が徹底されない場合、タヌキなどがあさったり、野良猫、野良犬が定着して野生哺乳類の生息環境を脅かす可能性がある。
したがって、作業員やダムを訪れる人にはゴミの持ち帰りを呼びかけるとともに、収集したゴミを動物が荒らさないように配慮する必要がある。
(3)ダム湖への外来魚種放流禁止のPR
ダム湖にブラックバスやブルーギルなどの外来魚が放流され、在来種を駆逐されることがないよう、ダムを訪れる人に対し、なぜ外来魚の放流を止めなければならないかを地道に啓蒙していく努力が必要である。
(4)植林地の施業の推進
ダム建設地周辺の植林地は、スギ、ヒノキが生い茂り、林内は暗く、林床植物がほとんどない林が大半である。
多くの動植物にとっても、よりよい生息・生育環境となるように、適正な間伐や除伐を施し、健全な林となるよう、森林組合等の関係機関にその意を伝え、地元の理解、協力が得られることを希望する。
4.環境保全の推進
猛禽類(クマタカ、オオタカ)の生息状況に大きな問題が発生していないか、監視する必要があるため、繁殖の有無などについてモニタリングを実施されたい。
また、植物については、移植後の個体が活着しているか、生育状況は良好であるか確認するために、移植個体のモニタリングを3年程度実施することが望ましい。
5.環境対策連絡会(仮称)の設置
モニタリングの結果や工事中の配慮事項の確認などをとりあげ、定期的に問題が発生していないかを確認するとともに、よりよい環境配慮に対して地元からの意見を聴取する場として環境対策連絡会(仮称)を設置されたい。
6.その他
普通にみられる種を維持しながら豊かな生態系を保全すること、子どもたちや地域住民が身近な自然に触れ合う場を増やし、その大切さを認識してもらうため、工事区域における動物の生息環境創出や広葉樹林化に際しては、将来的に環境教育、自然観察の場として利用できるような整備を行ってほしい。
県では、この提言を事業計画や工事施工などに極力反映させるとともに、住民の皆さまをはじめ、多くの人々に理解を頂きながらダム周辺の環境保全に努めていきます。
静岡県袋井土木事務所
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